2016/10/05(水)「バケモノの子」は面白いが台詞のセンスがない

サマーウォーズ」を見てから細田守作品のファンで、前作「おおかみこどもの雨と雪」は劇場で見ているものの、「バケモノの子」は劇場では見ていなかったのですが、今更ながら見てみてました

正直なところ期待してなかったのですが、思ったよりぜんぜん良かった。面白かった。

主人公九太(蓮)は、バケモノの世界に迷い込み、そこでバケモノ熊徹の弟子となります。熊徹は弟子もいないような半端者で、九太も親を失い途方に暮れながらその現実から逃げているだけの子供です。その二人がひょんなことから師弟となって一緒に過ごします。

舞台設定をバケモノの世界にして、成長の目標を分かりやすく「強くなること」に絞ってはいますが、このお話は「子供である九太とその親(代わり)となった熊徹」、つまり互いに未熟な親子が織りなす成長物語です。

細田監督はサマーウォーズでは田舎の大家族を描き、「おおかみこども」では狼の子供という状況での「子供の成長」を描いているように、一貫して『家族』を描いています。この家族と成長というテーマは決してわかりやすい(宣伝しやすい)お話ではないのですが*1、ヒット作ということに少し驚きもあります。

生卵を食べらなかったのにぶっかけご飯を食べるようになったり、熊徹に歯向かうところといい、周りの子に対してちゃんと強くなっていくところとか、細かいエピソードできちんと成長が描写されているのが見ていて気持ちいいです。

熊鉄と猪王山(いおうぜん)の格闘シーンは躍動感も素敵だし、それを立ったまま微動だにせず見つめる九太もまた格好いい。誇張したアニメならではの面白い動きのある人物と、その他大勢の観衆といったシーンはサマーウォーズからありますけど、細田作品の真骨頂でもありますね。

ただ宗師様に言われて、各地の賢者に会いに行くエピソードは要らなかった気もします。冒険活劇要素として入れてみたのかもしれませんが、何かしら成長のための具体的描写や他の冒険を用意したほうがよかった感じも。ただこのエピソードはギャグとして面白かった。


前半でバケモノの世界で二人の順調な成長を描いたあと、後半では一転して九太が現実世界に出入りするようになります。この辺、唐突でフリがないので出入りするようになった理由が分かりにくいですね。そして、ここで登場するのが楓という女子高生です。

楓は九太(蓮)を人間的な意味で(知識的な意味で)導きます。学校に行っていなかった九太に対する、教育面での親代わり学校代わり、そしてヒロインとしての存在です。やがて現実の親(父親)との再会も果たし、九太はバケモノの世界ではなく現実の世界で生きようと考え始めます。

つまるところ17歳にして「ちょっと遅めの反抗期」です。17歳になった九太は、親としての熊鉄に対する反抗心や失望*2から、九太は現実世界に出入りし、楓に惹かれ、バケモノとしてではなく人間として生きていこうと考えます。とはいえ、熊鉄にはとても恩義を感じていて、そこに迷いもありました。

細田監督は後半の物語が動く場面でも、つくづく丁寧に九太の成長と熊鉄との関係に焦点を充てて描いています。この手の物語でおざなりにされそうな、楓と九太が(主人公とヒロインだから)無条件に好き合うということもなく、お互いがお互いに惹かれる理由がそれなりに納得いく形で示されています。これも上手いところです。

そういう細かい描写を積み重ねつつ、終盤に向けて物語を盛り上げ、同時に九太と熊鉄の関係にも決着を付けて物語は終わります。本当によくできていて、良い意味で期待を裏切られました。


本作を劇場で見なかった理由、期待していなかった理由は、前作に引き続き細田守脚本だったからです。細田監督は、細かい物語を積み上げて、大きな物語を紡ぐことをあまり得意とせず、また自身の作風が「親子の絆」に焦点を当てているため「一見パッとしない物語」になやりすい性質があります。演出や描写は素敵なのですが、大きな流れのあるお話作りはあまり得意ではないようです。

その点、本作は「ちゃんと冒険活劇かつ成長物語」になっているのですが、力が入っていてちゃんと伝わる成長物語に対して、冒険活劇としては「各地の賢者に会っただけで冒険してなくない?」という印象が拭えません。宮崎駿作品を意識した冒険要素だっのかもしれませんが、同じく異世界に迷い込むという意味で「千と千尋」と比べると冒険的な盛り上がりは弱く感じてしまいました。「千と千尋」があまりによく出来ているということはありますが、異世界というワクワク感も少し弱く感じます。

脚本の難点を挙げると、終盤、一郎彦が闇落ちしてしまうのですが、「そうしなければ物語として盛り上がらない」以上の理由がどこにも見当たりません。一応説明はされているのですが、違和感までは行かないまでも納得感は薄いですし、「闇」の描写についても絵的には分かりやすいものの、お話としては「これは一体何だろう?」という疑問が残ります。

また細田守脚本の問題として、台詞のクオリティが低いことが挙げられます。

  • 「蓮(れん)。母さんが突然いなくなって寂しいかもしれんが、交通事故だから仕方がない」
  • 「幼稚園から受験して、父さんと母さんが望むような成績を死に物狂いで取って、なのに二人とも私の気持ちなんて知らない。(中略)だから今は辛くても必死に勉強して、学費免除されるぐらいの成績で大学に受かったら家を出る」

とても説明的でセンスがありません。全体的に良い台詞が少ないので、絵的に面白い画面はシーンはたくさんあるのに、際立って「印象的なシーン」、そして何より「印象的な台詞」が何も思い出せません。端的に言ってしまえば、サマーウォーズの「よろしくお願いしまーーーーーーーす」に勝るものが、何もないのです。

終盤の熊徹と宗師のシーンでも、この問題があります。

  • 「お前というやつは、迷いなど微塵もない目をしおって」

この台詞は特にひどい。変えるなら「お前というやつは……」「聞くまでもなかったようじゃな」とかでしょうが、そもそもこの台詞は要らない。台詞がない方がシーンが引き立つ。他にも「心のなかに剣があるだろう」という重要なセリフも、フリは良いのに「意味が分かりにくい」せいで印象が薄くなっています。

かと思うと、説明台詞が多いのに、熊徹が付喪神になって転生することで一郎彦に勝てる理由がさっぱり分からない。これは最終決戦という重要なシーンで、観客を置いてきぼりにしてしまう欠陥にもなっています。ちぐはぐ感がありますね。

細田監督は原作だけして、プロのシナリオライターに脚本を任せた方が個人的には好みです。それこそサマーウォーズのように。*3

台詞や脚本に粗があり面白さが半減しているのはちょっと勿体なくも感じましたが、成長や関係を丁寧に描いていて絵的な面白さもたくさんあり素直に楽しめる作品でした。次回作にも不安を抱きつつ期待してみたいです。

*1 : この作品と比べると「君の名は。」は実に宣伝しやすい作りになっています。

*2 : 親が持つ未熟なところに対する失望。誰もが通る道ですね。

*3 : クレジットに「脚本協力 奥寺佐渡子」とあるので現状でも修正されたものかもしれませんが……。

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